PCB中毒は1968年にカネミ倉庫が製造した米ぬか油の中に、PCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入していたことによる大規模なカネミ油症事件で発生しました。このPCB中毒では顔や首、腕、背中、お尻に塩素ニキビといわれる吹き出物とそのかゆみ、顔や歯肉や爪の色素沈着、感染症への抵抗力の低下などの特徴的な症状があらわれます。
PCB中毒の食事療法として摂取する必要のある栄養素を検討して、それらの栄養素を多く含んでいるクロレラの摂取による効果を検証することになりました。チクゴ株クロレラは小児期の成長や体力づくりに好結果をもたらすことや、かぜの感染を抑制することは知られていましたが、PCB中毒に対する効果の研究はこれが初めてでした。
PCB中毒と食餌指導―とくにクロレラの応用について―
民医連医療 31:42-44(1974)
【投与条件】
食餌療法とともに、チクゴ株クロレラの錠剤を大人では1日15錠~60錠、小児では6~12錠服用し、チクゴ株クロレラの作用についての効果を検討しました。
クロレラ錠を服用開始後、「疲労感が軽減した」「胃腸の調子がいい」「便秘が軽減した」など自覚症状に変化がみられました。さらにラットにおける実験的検討を行なった結果、PCBによる体重の減少と肝肥大を予防することがわかりました。これらより、食事療法とクロレラを併用した長期にわたる食事指導の質的な改善への具体策として有効であると考えられました。
また、カネミ油症問題についてのチクゴ株クロレラのはたらきは、実際に過去の新聞にも掲載されており、その効果は広く認知されています。
さらに、PCB中毒に関しては、その中毒過程におけるチクゴ株クロレラによる動物試験の効果と予防的な効果を調べました。
PCB中毒過程に対するクロレラ製剤の治療的並びに予防的効果に関する研究
1974年日本産業衛生学会
【投与条件】
ラットに対して、PCB(KC-400:カネミ油症の原因となったPCB)を普通食に100ppmの割合で高配合し、チクゴ株クロレラを投与するグループと投与しないグループの2つに分けて、その体重変化と肝肥大を調べました。
ラットの摂餌量を調べた結果、チクゴ株クロレラを投与したグループの方が、餌の摂取量が、実験全期間中を通して良好でした。
また、体重の変化を見てみると、チクゴ株クロレラを投与したグループの方が体重増加は順調で、クロレラを投与されなかったグループは、17週目より体重の減少傾向を示しました(図1)。
体重に対する肝臓の重量比では、チクゴ株クロレラを投与したグループの方がクロレラを投与しなかったグループと比較して肝肥大が抑制されました。このことから、PCB中毒による肝臓肥大に対する、チクゴ株クロレラ摂取の効果が認められます。
上記より、PCB中毒を想定した実験群において、チクゴ株クロレラを与えることで体重の減少を防ぎ、肝臓の肥大を抑えることが確認できました。
このような研究結果がある一方で、油症の原因物質は、PCBだけではなくダイオキシンも主な原因であったことが判明しています。油症の原因となったPCB汚染食用油の中に、猛毒のダイオキシンが多量に含まれていたのです。そこでダイオキシンの吸収・排泄にチクゴ株クロレラが有効かどうかの動物試験を行ないました。
ラットに食事とともにダイオキシンおよびチクゴ株クロレラを投与して観察。ダイオキシンの吸収抑制作用を調べるためにダイオキシンの体外排泄量を測定しました。チクゴ株クロレラを投与しなかったグループと比較してチクゴ株クロレラを投与したグループでは、排泄量が9.8倍も高まり、他の食物繊維等と比較しても顕著に高い排泄効果が検証されました(図1)。
また、あらかじめダイオキシンを体内に蓄積させたラットにチクゴ株クロレラを投与し、ダイオキシンの排泄を促進する作用を調べてみると、体内での滞留時間が1/2から1/3まで短くなり、チクゴ株クロレラがダイオキシンの体外への排泄スピードを高める効果が認められました(図2)。
これらの研究結果はチクゴ株クロレラを摂取することで、体内で代謝しにくく極めて残留性の高いダイオキシンの吸収を妨げ、排泄を促進させる作用に有効であることを示しています。このような研究結果は、以下の文献でも同様に報告されています。
(参考文献)
・Toxical Environ Health,43(3),167-173(1997)
・J Nutr,129(9),1731-1736(1999)
・Environ Health Prespect,109(3),289-294(2001)